本文とサイドメニューへジャンプするためのナビゲーションスキップです。

スタートアップガイド

J-Net21 中小企業ビジネス支援サイト

  • J-Net21とは
  • スタートアップガイド
中小機構
  • メルマガ登録
  • RSS一覧
  • お問い合わせ

HOME > 製品・技術を開発する > デジ・ステーション

デジ・ステーション


5分でわかる最新キーワード解説
「DNAメモリ」ってなんだ?

日々進歩するIT技術は、ともすると取り残されてしまいそうな勢いで進化の速度を高めています。そこでキーマンズネット編集部がお届けするのが「5分でわかる最新キーワード解説」。このコーナーを読めば、最新IT事情がスラスラ読み解けるようになることうけあい。忙しいアナタもサラっと読めてタメになる、そんなコーナーを目指します。今回のテーマは「DNAメモリ」。ITとはやや縁遠いバイオテクノロジーの分野で、なんとバクテリアにデータを保存する技術が開発されました。数千年経ってもデータが消えないという、夢のような記憶媒体のお話です。いつの日か、ストレージとしてバクテリアを持ち歩くという時代が来ないとも限りません!?

DNAメモリとは

今回は、まずDNAのおさらいから始めよう。生物の遺伝情報を担うDNA(deoxyribonucleic acid:デオキシリボ核酸)は、デオキシリボース(糖)、リン酸、塩基(酸と対になって働く物質)から構成されている。塩基にはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4種類があり、これらの配列が遺伝情報、すなわちゲノムを形成する。つまり、生物固有の遺伝情報は、DNA配列の並び方によって決まってくるのである。  DNAメモリとは、この仕組みを利用したデータ保存技術だ。まず、保存したいデータをDNA配列に変換する。こうしてできた人工DNA配列を生物(バクテリアなどの細菌類)のゲノムに挿入することで、データを長期保存することが可能となる。バクテリアは、光ディスクやハードディスクといった現在のコンピュータに用いられている主流メディアと比較するとデータの集積度がはるかに高いため、媒体の大きさを格段に小さくすることができる。また、光ディスクやハードディスクでは数百年もデータを保持しておくことは不可能だが、バクテリアは世代を経てゲノムに遺伝情報を残していくことができる。従って、バクテリアを使ったDNAメモリは、大容量データを数千年という長期に渡って保存可能な小型の記録媒体になりうるとして注目を集めているのである。
 今回、バクテリアにデータを保存するという新しい技術開発に成功したのは、慶應義塾大学 先端生命研究所と同大湘南藤沢キャンパスの研究グループである。彼らは1905年にアインシュタインが発表した相対性理論の方程式にちなみ、「E=mc2 1905!」という文字列データを実際にバクテリアに保存。コンピュータシミュレーションにより、世代を経ていくバクテリアに数千年もの間データを記録できるという可能性を示した。

DNAメモリの仕組み

慶大の研究グループが開発に成功した、DNAを使ったデータ保存技術の仕組みを図1に示す。

  • まず、保存したいデータを4種類の圧縮(変換)アルゴリズムを使って4種類のデータ配列(ビットデータ)に変換し、そこから4種類の人工DNA配列を合成する。
  • 合成した人工DNA配列をバクテリア(枯草菌)のゲノムに挿入する。
  • この状態で長期保存が可能になる。
  • データを読み出すときは、データが挿入されているゲノムDNA配列を、今度は対応する4種類の解凍(逆変換)アルゴリズムにかける。
  • データを読み出すときは、データが挿入されているゲノムDNA配列を、今度は対応する4種類の解凍(逆変換)アルゴリズムにかける。

なお、この新技術で使われている枯草菌は、1個で数マイクロメートル(10のマイナス6乗メートル)という大きさしかないが、そこに最大でフロッピーディスク約1枚分の情報を保存できるだけのデータ集積度を持つ。

図1 バクテリアにデータを保存する新技術

資料提供 慶應義塾大学先端生命科学研究所

●4種類の人工DNA配列を使う理由

この技術では、1つのデータをわざわざ4つの異なるデータに変換しているが、なぜそのままの形でバクテリアに保存できないのだろうか。それは、同じ配列のDNAがあった場合、組み換えを起こす性質を生物が備えているからである。たとえば、1つのデータ(人工DNA配列)をバクテリアの中に何ヵ所かに分けて複数セット挿入しておけば、どこかが壊れても後で情報を統合することで復元できると考えるのが普通だ。しかし、同じ配列のDNAをいくつもゲノムに挿入すると、DNAは組み換えを起こし、生物の活動が不安定になってしまう。そこで、1つの情報を複数の異なる配列に変換することで、まったく異なる複数のDNA配列として認識されるようにしているのだ。ここで、4通りという数値は、数千年経ってバクテリアのDNA配列が一部変化してしまっても、99%以上の確率で正しい情報を読み出すことができるというコンピュータシミュレーション結果から割り出されたものである。

●枯草菌が選ばれた理由

今回開発されたDNAメモリの技術では、バクテリアとして納豆菌の親戚である枯草菌が使われた。枯草菌は土壌中や空気中に飛散している常在細菌の1つで、枯れた草の表面などにも存在するごく一般的なものだ。今回の技術で枯草菌が使われた理由は、枯草菌は人工DNAを挿入するのに適しているからである。枯草菌は、自分の近くにあるDNAを取り込んで自分のDNAの中に挿入するという特徴を持つ。微生物の実験研究では、大腸菌が最もよく使われているが、大腸菌の場合、短いDNA配列なら挿入できるが、長いDNA配列になると挿入が難しいという課題があった。一方、枯草菌は長いDNA配列でも挿入可能であり、同じ慶大研究所内に枯草菌に精通した研究グループがいたことが大きなきっかけの1つとなった。

DNAメモリの将来と課題

実は、DNA配列をデータ保存に利用しようというアイデアは新しいものではなく、従来からDNAメモリに関する研究は行われていたのだが、成功には至らなかった。その最大の理由は、前述したように生物は自分でDNAを組み換える性質を持っており、そのため情報が変化してしまう危険性があるからだ。なぜ生物はDNAを組み換えるのかといえば、常に完ぺきにDNAを伝えていくだけでは、進化できなくなるからである。しかし、今回の新技術の開発により、DNAメモリの実現に向けて、大きく一歩前進したことになる。次の課題は、現在の読み書きにかかる数千万円というコストをいかに抑えるかである。
 コストと並んでDNAメモリの持つ大きな問題点は、書き込みと読み出し、つまりアクセスタイムにかなりの時間(現時点では1日から数日)を要することだ。したがって、このままでは現在のハードディスクの代わりに使うことはとてもできないが、保存するデータの内容によっては、数千年もの長期保存が可能ならば少々読み書きに手間がかかってもよい、というケースは十分に考えられる。

実用化の一例として、DNAメモリを電子署名のように使うことも考えられる。たとえば、バイオテクノロジーの分野では、有用な微生物をいち早く作って特許を取るという熾烈な開発競争がすでに始まっているが、せっかく努力して作った微生物の海賊版が、市場に出回ってしまう恐れもある。そこで、署名となる文字列を微生物のDNAに入れておけば、無断使用していることを示すための決定的証拠になるというわけだ。
 DNAメモリには、長期間のデータ保存が可能というだけでなく、非常にタフだという長所がある。枯草菌は、乾燥させると冬眠状態になるが、この状態では種のように頑丈になり、大量の紫外線や極端な気温変化といった過酷な自然環境にさらされても十分に耐えることができる。こうした特性を利用すれば、人類の英知をはるか未来に残すためにDNAメモリを活用するという計画も、まんざら夢物語ともいえないのではないだろうか。

取材協力 : 慶應義塾大学先端生命科学研究所

掲載日:2009年3月11日

キーマンズネット

出典元:株式会社リクルート キーマンズネット 2007年05月23日掲載分

検索

このページの先頭へ